敗戦と日本的組織ー失敗の本質 日本軍の組織論的研究【書籍紹介】
更新日:2023年7月22日
なぜ日本は、米軍に太平洋戦争で完膚なきまでに負けたのか。
戦争に巻き込まれ、筆舌に尽くしがたい塗炭の苦しみを味わった日本人達が思った、悔しさであり、真に原因を知りたかった疑問であったでしょう。
この本は、その敗因を組織論の面から分析し論じたものです。
本書は1984年に、野中郁次郎、寺本義也、戸部良一といった日本を代表する組織論の研究者を含む6人で執筆され、40年近くを経た今でも読まれ続けている名著です。
繰り返される日本的組織の失敗
本書の基礎にあるのは、日本が負けた原因は「組織としての日本軍は、米軍という組織に決定的に敗れた」というところにあります。
そして、この敗因となった日本的組織の特性は現代日本の組織においても生き続けており、それが経営の足かせになっている部分があることを認識させたいというのが、本書の趣旨でしょう。
本書は3章から構成されており、1章ではノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル戦、インパール作戦、レイテ戦、沖縄戦の6つの戦闘における計画、実行面における問題点を分析し、2章では敗戦した戦場に共通する部分を抽出した上でその失敗要因を論じています。3章では「失敗の教訓」と題し、コンピジェンシー理論のフレームワークから、組織内に環境変化のフィードバックに応じて戦略を変える柔軟性をもつ事の意義が主張されています。
本書を読んで、太平洋戦争の敗因となった日本的組織の問題点を一言でまとめると、「日本人というのは一つの型にはまる、はめるのが好き」、と言うことですね。
日本人は一度うまく行った型に対して、金科玉条のように信奉し、守り抜いて磨き上げていく性質が強いです。
例えば日本製品が改良に改良を重ねて、そこまでしなくてもいいだろうくらいのクオリティや機能がつくとこなど、この性質が表れていると、私は思っています。そして一直線にしか戦略を考えていないから、他所で破壊的イノベーションが生じた場合、あっという間に駆逐されてしまうことを繰り返しています。
それはガラケーとスマホの登場との関係、推移の例などを見れば、良く理解できると思います。
またこの性質が、組織内に強い前例主義をすすめさせ、日本組織の革新性、創造性というものを奪っているとも思っています。
このような一つの型に対する硬直的過剰適応をしていると、その前提となる環境が変化し、現在維持している戦略が有効に機能しないとなった場合、よるべき次の型がなく、戦略不在、思考停止になるのです。
余談ですが、このような思考停止は、沖縄戦で高級参謀であった矢原博道氏が書いた「沖縄決戦」においても、大本営の思考停止に読むことができ、いったい日本軍のこのていたらくは何であるのかと、憤りを持つところさえあります。
本書を読み終わった後に、多く方は自分が属する企業や組織において、経営の障害を生んでいる組織文化と日本軍組織の共通点をみて、組織の問題点に日本的組織文化というものがあることを、理解すると思います。
本書は、米軍が日本軍にはない自己革新能力を備えていたという差が、そもそもの原因という事を説明しているのですが、この類似はバブル崩壊以降の失われた30年の日本における、新興国や米国等との企業競争においても見いだすことができて、また戦後日本は日本的組織文化により負けたのだろうと思い至ります。
日本はその組織文化により、敗戦を繰り返しているのかも知れません。
私は、多くの組織論の学者先生のを読んで参りましたが、日本には日本独特の組織文化があるように思います。
それは日本人のDNAに刻まれたかのごとく、自然と無意識の中でわき上がり、形成されていくものです。
それが場面においては良い作用を起こすことがあると同時に、現代のように環境変化が激しい時代においては、悪く作用するところもあるでしょう。
是非、皆さんには読んでいただきたい本と思います。
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