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【書籍紹介】戦略の本質とはなにか『戦略の本質-戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ』

戦略とは

経営を行っているエグゼクティブは、常に経営における戦略というものを考えているでしょう。

しかし、戦略という概念を説明してくださいといわれて、統一的な説明できるでしょうか。

やってみるとわかりますが、なかなか難しいものであります。

実は、戦略というのは戦略論の学者やその他経営者等においても、定義が曖昧でハッキリしない言葉です。


もともと戦略(Strategy)の語源は、ギリシャ語のSTRATGIAから来ています。これは将軍の謀、軍隊指揮という意味のもので、これが今日では軍事だけでなく国家経営、企業経営においても使用される言葉となりました。



ここで戦略の定義について、米軍の統合ドクトリンを例にとって、説明してみましょう。

米軍の統合ドクトリンには「戦いの階層」という概念が出てきます。

戦いの階層は「戦略」、「作戦」、「戦術」という3つのレベルで構成されます。

統合ドクトリンでは戦略を「外交、軍事、経済など、様々な国家的手段を同期させ、総合的に用いることにより、戦域及び国家レベルで設定された目標を達成するために検討・策定された構想及び指針」と、広く定義してあります。すなわち軍事的意味での戦略とは、国家が決定した目標達成のための方針という概念で定義されているのです。


ここからは余談ですが、さらに下層には「戦術」があり、「陸兵、艦艇及び航空機といった兵力を適切に配置し、命令により行動させること」と書いています。

そして戦略と戦術を結びつけるのが「作戦」です。作戦とは「統一的な目的を追求する一連の戦術行動」と定義されています。このように、米軍ではしっかり構造的に戦略、戦術、作戦という概念を定義して運用しているのですね。


小が大に勝った戦史から導かれるもの


さて本題に戻れば、本書は日本軍が負けた理由を組織論で分析した前著「失敗の本質」からの続きで、今度は「では、いかにすれば日本は勝てたのか」という問題意識から、戦略論を中心に研究をした内容になっています。

内容的には戦史から「小が大に勝った」例を集めて、なぜ勝てたのかという戦略構造を解き明かしていく事で突き止めていく構造になっています。


本書は、小が大に勝った6つの戦いのケーススタディからはじまり、そのケーススタディを総括して戦略の構造的部分の分析、そして戦略の本質とはなにかを10の命題で示しているものです。


6つの戦いでは、毛沢東の反「方位討伐」戦、バトルオブブリテン、スターリングラードの戦い、朝鮮戦争、第四次中東戦争、ベトナム戦争を挙げています。


この内容を読むだけでも面白く、経営においても参考になることが多いです。


毛沢東や北ベトナム軍のゲリラ戦、スターリングラードでの徹底的に接近戦にもちこみ、ドイツ軍の強みである電撃戦を封じ込めるやり方、第四次中東戦争における対空ミサイルと対戦車ミサイル歩兵との独創的運用でイスラエル空軍と機甲師団を無力化させるなど、非常に興味深く読める内容になっています。


またその総括としての後半の内容も、インサイトを与えてくれる内容となっています。


この本を読んでわかったことは、副題にもなっていますが、トップのリーダーシップの発揮が逆転を可能にしたのだということです。

戦略とは組織のトップが戦略の策定し、トータルプロセスを経営することにより成し遂げられるわけですから、そのトップのリーダシップが基本となる訳です。

組織においては、トップのリーダーシップがどのように発揮されるか次第で、その成否の方向を変えていくのです。



戦略を成功させるリーダシップの源泉はフロシネス(賢慮)にある


ではそのリーダーシップとはどこから来るのか?

本書の最終章の「戦略の本質とは何か-10の命題」というところで、「命題10 戦略は賢慮である」というのが出てきます。


賢慮=フロシネスを実践的な価値合理性を基礎とし、個々のコンテクストや状況に応じてどのように行為するのかを判断することや、常識の知、経験や直感の知を志向する実践的知恵(高質の暗黙知)と説明しています。

そして、リーダーシップの源泉となるのが賢慮=フロシネスであると説明されています。


リーダーのこれまで培ってきたフロシネスがリーダシップに違いを与え、戦略の良否を左右するというわけです。

野中郁次郎氏は別の書籍の中で、様々な教養と修羅場の経験がフロシネスを生むと説明しています。

確かに歴史の偉人達も、その伝記などをそうだなと思うことがありますし、我々の身近なところでも思い当たります。

例えば、若い頃から苦労し様々な経験をして、また勉強熱心であった社長が創業した会社は大きくなったが、その後、なにも苦労せずゴルフと飲み三昧で遊びほうけている二代目が経営者になったとたん、業績が悪化し倒産することを、我々は目にすることがあります。

これもまたフロシネスー賢慮さを積み上げることができずに、リーダシップが力不足で戦略が不出来だったという風にも説明できます。


この本をきっかけに、野中郁次郎氏達はリーダシップについて研究するようになり、最終的には経営は賢慮型リーダー、賢慮型経営によって経営されるべきというものにまとまっていきます。


なかなか面白い本ですので、一度ご興味ある方は読んでいただきたいと思います。


















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